IoT（Internet of Things＝「モノのインターネット」）とは、PCやスマホなどの情報端末以外の「モノ」に、データを蓄積する機能や、通信機能を持たせることです。さまざまな「モノ」をインターネットでさらに便利にしよう、という思想はかなり以前に流行した「ユビキタス」と意味合いが似ていますが、重要視される部分が異なります。

ユビキタスは、いつでもどこでも通信を利用して、欲しい情報を簡単手に入れたり、便利なWebサービスが使える状態ことを目指すものでした。一方、IoTは「モノ」そのものが利用データを蓄積し、そのデータや通信機能を利用して「モノ」の機能をさらに高めることや、問題を解決することを目指すものです。

IoTを日本語に訳す時には「モノのインターネット」という言葉が使われますが、実際には通信機能以上にデータの蓄積が重要なポイントであることから「モノのビッグデータ」といった言葉のほうがイメージが伝わりやすいかもしれませんね。「モノ」が、自らがどのように利用されているかのデータを収集し、蓄積し、分析してアラートやアドバイスを提示する……という流れが「モノのインターネット」です。

しかし、この説明は、まだまだまわりくどいですね。事例をあげて、IoTにおけるデータの収集と利用について、もう少し簡単にしてみたいと思います。

腕時計型やメガネ型のウェアラブル端末は、IoTのもっとも身近な例でしょう。これらは、単なる小型化の進んだモバイル端末というわけではありません。形や「身に付けるモノ」という特性を活かし、身体活動に関するデータを測定・蓄積できるのが特徴です。ウェアラブル端末は、蓄積したデータを元にして、ユーザーに適切な行動を促します。

たとえばAppleウォッチは、身に付けて生活や運動をすると、心拍数や消費カロリーなどの活動データを収集・算出してくれます。1時間ごと・1日ごとなど時間を区切って目標を設定し、目標に足りない場合にアラートを鳴らすようにしておけば、ダイエットやトレーニングといった目的達成の大きな手助けになるでしょう。

（参考）Apple Watch
http://www.apple.com/jp/watch/health-and-fitness/

また、メガネ型のウェアラブル端末JINS MEMEは、専用のスマートフォンアプリと連動して、安全な運転や、効果的なトレーニングを助けてくれます。具体的には、まばたきや視線の動きをメガネに搭載したセンサーで測定し、アプリから安全なドライブのためのアラートを出したり、トレーニングの際の体の傾きや動きのブレを測定し、適切なフォームを実現するためのアドバイスを提示したりといった機能が搭載されています。

（参考）JINS MEME
https://jins-meme.com/ja/apps/

どちらも、ユーザーの活動データを測定・蓄積することで、時計やメガネといった「モノ」の機能が大きく向上していますよね。まさにこれが「モノのインターネット」です。

もうひとつ、IoT化が大きく注目されている「モノ」のひとつである自動車について取り上げたいと思います。

自動車においては、自分の位置を測定し、目的地への道順を示すカーナビが搭載された時点で、すでにIoT化していたと言えるかもしれませんね。加えて現在は、運転時、さらに多様なデータが測定できるようになりました。このデータを元にして、より便利な機能やサービスの提供がはじまっています。

中でも、注目を集めているのは、テレマティクス保険です。データを集め、それを元にアドバイス等などを行う自動車の情報化のことをテレマティクスと呼びますが、テレマティクス保険は自動車の運転そのものでなく、運転に欠かせない保険の利用に情報を活用します。

ウェアラブル端末でできることを考えれば、自動車のIoT化により、走行距離や運転状況（速度やブレーキの状態など）のデータ取得や、それを元にしてより安全な運転・低コストな運転のための提案ができるのは想像に難くないですよね。安全対策として、業務効率化のための施策として、実際にサービスが提供されています。

（参考）オリックス自動車/テレマティクスサービス
http://www.orix.co.jp/auto/hojin/telema/

しかし自動車の領域ではすでに、ここからさらに先を行く「運転情報の保険への活用」が注目を集めています。

既存の自動車保険では、自動車本体や運転者の属性、運転の頻度、走行距離などから保険料が変化しました。しかし現在では、テレマティクスによって、ブレーキの頻度やカーブの進入速度など、運転に関するさらに詳細な情報を得ることが可能となりました。これは、保険の必要性や金額等をより明確にできる情報です。

たとえばソニー損保では、加速・減速のスムーズさを測定するドライブカウンタを保険利用者に提供し、リスクの少ない運転をしている人に保険料をキャッシュバックするサービスを提供しています。

（参考）ソニー損保/やさしい運転 キャッシュバック型
http://www.sonysonpo.co.jp/auto/cashback/

運転状況から判断し、事故にあう可能性の低い運転者がお得に保険が使えるようになれば、利用者にとっては非常に嬉しい変化ですよね。テレマティクス保険は、IoT化がもたらすプラスの影響を具体的に示してくれる、非常にわかりやすい事例です。このように、IoT化により「モノ」が情報を収集できるようになれば、ユーザーにも、サービスや商品の提供者側にも、今までになかった、そして非常に大きな価値をもたらしてくれる可能性があるのです。
 

上記の通り、IoT化の肝は、大量のデータの収集にあります。スマホなどのモバイル端末の普及し、技術が進化したことにより、さまざまな「モノ」が、利用される際の多様かつ大量なデータを取得しすることが可能となってきています。IoTへの注目の高まりは、スマホ普及と連動して起こってきたと言ってもいいかもしれませんね。

しかし、IoTのポイントはあくまで「モノのインターネット」、つまり「これまでデータを取ることができなかった領域（モノ）の利用において、データ取得が可能となったこと」にあります。デジタルマーケティングの領域においては、ユーザーの属性や行動履歴等、端末の利用に関する膨大なデータを取得し、活用する…というのはもちろん最近にはじまったことではなく、手を変え品を変え、常に課題とされてきたテーマですよね。

ビッグデータ、マーケティングオートメーション、人工知能など、デジタルマーケティングで近年注目を集めてきたどのキーワードも、突き詰めて考えればすべて「ユーザーの行動を示す大量のデータを取得し、効率的に活用しよう」という点に集約できます。結局のところ、IoTというキーワードにおいてデジタルマーケティングは除外された分野であり、自社サイトで情報発信をしたり、Web広告の出稿をしたりといったデジタルマーケティングに関わる人たちの行動が、近々にIoTによって何か変わるかというと、正直そうではないかもしれません。

とは言え、スマホの普及がモバイル端末の技術進化を促進し、「モノ」がデジタル化を始めたように、「データを集積し、それを活用する」というプロセスがデジタルマーケティング以外の領域で当たり前のことになれば、「集めたデータを活用する方法」にも影響が出てくるのではないでしょうか。

大量のデータからより役立つ情報を取り出す方法や、今までまったく思いつきもしなかったデータの活用方法が登場するかもしれません。デジタルマーケティングやWebマーケティングに関わる立場からは、そういう視点で、今後のIoTに注目してみたいと思います。