先日（2015年9月）リリースされたiOS9に、公式に広告ブロック機能が搭載されました。

「公式に広告ブロック機能を搭載」といっても、iPhoneの標準ブラウザSafariがあらかじめ広告ブロック機能を持っている……といった直接的な利用方法ではありません。コンテンツブロッカーと呼ばれるアプリをユーザーが別途インストールすることで、はじめてSafari上での広告ブロックが可能となるものです。しかし、iOS9のリリース後に、有料のコンテンツブロッカー（広告ブロック用のアプリ）のレビューは相次いでWeb上にアップされ、大きく注目を集めました。

このことからもわかるように、PCよりも画面が小さい分広告の存在感が大きく、しかしPCのようには手軽に広告をブロックできなかったスマートフォン環境でのこの変化への注目度は高く、今後はモバイル広告だけでなく、Web広告やWebコンテンツの方向性にも、大きな影響をもたらすかもしれません。このことは、自社のマーケティングにWeb広告を利用する人はもちろん、より多くの人に見てもらうことを目指してWebコンテンツの作成に取り組む人にとっても興味深い事柄ではないでしょうか。

ということで今回は、iOS9上で起こった広告ブロックや現在のWeb広告について、まとめてみたいと思います。
 

PC環境では以前から、ChromeやFirefoxといった主要ブラウザの拡張機能を利用して手軽に広告をブロックすることが可能でした。広告ブロックのための拡張機能を入れさえすれば、ごく簡単にページや動画を見るのに邪魔な広告をブロックすることができます。

しかし、スマートフォン環境の場合、ChromeやSafariといった主要ブラウザにはこれまで、こうした拡張機能は搭載されていませんでした。広告ブロック機能をアピールポイントとするその他ブラウザがなかったわけではありませんが、アプリ間の連携などの便利な機能も主要ブラウザ以外には対応していないことが多く、広告ブロックのために標準装備されている使い慣れたブラウザからその他のブラウザに乗り換える必要があるろなると、ちょっとハードルが高かったのではないでしょうか。

スマートフォンの小さな画面の中に表示されるアニメーション入りの広告や誤操作を狙うクリック型広告に対して苛立ちを感じる、という声はWeb上でよく見かけますが、広告ブロックが容易でなかったからこそ、モバイル広告は「より目立つ方向」「より誤操作しやすい方向」に進化していったのかもしれません。

こうした状況の中、先日（2015年9月）ついに、iOSの標準ブラウザSafari上で広告ブロックを利用できるようになった、というわけです。

（参考）Crystal - Block Ads, Browse Faster.
https://itunes.apple.com/jp/app/crystal-block-ads-browse-faster./id1022177308?mt=8

大きく話題となった広告ブロックのために必要なアプリは有料でした。それにも関わらず、この話題が大きく取り上げられたことからは「わずかな手間をかければSafari上で広告をブロックできる」という点に強く魅力を感じる人が多かった、ということを示していると言えるでしょう。また、ついに公式に広告ブロックの波が及んだという事実そのものからも「モバイル広告およびWeb広告全体の今後の方向性を示す前兆」が見てとれます。

それを示すように、10月には広告ブロックの流れをさらに促進するリリースがありました。

10月には、インストール&簡単な設定をしておけば、iPhoneの標準ブラウザSafari上で広告ブロックができる無料アプリが公開されました。これは広告ブロックを利用するユーザーの増加をさらに強力に後押しする進化ですよね。

（参考）Adblock Plus (ABP)
https://itunes.apple.com/jp/app/adblock-plus-abp/id1028871868?mt=8&ign-mpt=uo%3D4

有料アプリでしか広告ブロックができないなら、それらを使うのは「広告をかなり不快と思っているユーザー」「スマートフォンの使用頻度の高いユーザー」になると予測できます。しかし、無料アプリで広告ブロックが可能となれば、使用する層は一気に広くなり、今までさほど広告を気に留めておらず「ちょっと邪魔だな…」という程度に受け止めていた層にまで利用が広がる可能性もあります。

自社サイトのアクセス解析により、訪問ユーザーの利用端末の割合を把握している方なら実感されていると思いますが、スマートフォンユーザーの割合はもはやメインといっていい存在感を備えています。iPhoneユーザーの割合も非常に高いはずです。広告ブロックの利用者が増えれば、それに伴ってWeb広告のあり方や、広告収入を得ていたサイトのコンテンツや運営形態そのものも変わっていくかもしれません。
 

「広告ブロックを使う層＝広告を不快と認識している層」として、広告ブロック機能はあってもなくても広告の効果にそれほど大きな影響を与えない、という考え方もあります。広告に不快感を感じる層はどうせ表示されてもクリックしないのだから成果には関係ない、という考え方です。

しかし、広告の成果を測る指標はクリック数（売上アップ）だけではありませんよね。費用対効果の明確なクリック課金型が特徴とされることが多いWeb広告ですが、期間を設定して「表示枠」に課金されるタイプ、表示された回数に課金されるタイプのものももちろん存在します。ブランドイメージや認知度向上など、クリックだけでなく広告を見てもらうことに価値をおく場合も存在することを考慮するなら、広告ブロック利用者の増加がWeb広告やコンテンツに与える影響は、やはり小さいものではありません。

また一方で、今回iOS上で広告ブロックのための無料アプリをリリースしたAdblockPlusは「控えめな広告」の受け入れを開始しています。これは一定の条件を満たし、かつ手数料を払って「ホワイトリスト」への登録を勝ちとった広告主の広告のみが広告ブロックをくぐり抜け、ユーザーのもとに届けられる環境を実現するものです。

これまで（特にモバイルでは）誤操作を狙った追尾型広告や、チカチカと目立つ動きが付与された広告、アダルト広告など、PCでは考えられないような不愉快な広告・不適切な広告がありました。しかし、広告ブロックユーザーおよびホワイトリスト登録を目指す広告主が増加すれば、不愉快かつ不適切な広告は流れのままに排除されていくでしょう。

Webを閲覧するユーザー側にとっては、快適な情報収集ができるようになるこの変化は嬉しいものですが、広告を出稿する側、あるいは広告収入を得るコンテンツ作成する側としては、人の目を引きつけ心を掴むためのより一層の工夫が必要となるでしょう。この流れは、検索が「コンテンツの質」を重視するようになったことや、Webマーケティングにおいて、一方的な商品の「売り込み」でなくターゲットに必要とされる情報を発信することの重要性に注目されるようになった流れにも似ているのではないでしょうか。強制的に視線を集め反射的にクリックさせるやり方ではなく「情報を必要とする人に、正しく情報を届ける」ためのクリエイティブやコピーの重要性はますます増していくはずです。これは、情報の受け手はもちろん、作り手にとっても喜ばしいことかもしれませんね。